08.discovery day

「緊急連絡!不審人物を発見の報告あり!作業のない各員は艦内を調査。発見次第通報のこと!くりかえす…」
タークスから逃げ出し、他のメンバーに先行して船に忍び込み船員の制服を人数分調達して、全員の乗船を確認してから船倉の隅、樽の陰でぴくりともせず隠れていた名前だったが、この放送には反応を示した。全身がばねなのではないかと思われる勢いではね起き、誰よりも早く甲板に飛び出した。
神羅の海兵服に身を包んでいるお互いを確認しあった仲間たちは、不審人物だと確信し、見に行くこととなった。
「…………セフィロスか…………よし、行こう!」

船倉まで回ると、自分たちと同様に見回りに来ていたらしい兵士が血まみれで倒れていた。
機関室に、人間なんかじゃない、などと口走った彼をバレットは甲板まで運び、残りのメンバーは機関室に侵入することになった。
「セフィロス…なのか?」
機関室の中央に棒立ちの、士官服に身を包んだ海兵がいたためクラウドは声をかけたが、次の瞬間にただの死体として倒れた様子に首を振った。
「ちがう……セフィロスじゃない!」
「長き眠りを経て……時は…満ちた」
静かな声とともに床からセフィロスが現れ、クラウドが猛然と突っかかっていった。何を言ってもまともな応答をしないセフィロスが飛び去ったかのように思えた瞬間、突如として怪物が現れ、一同は戦闘を強いられた。
そして目の前のことへの対処で精一杯だった彼らは、扉のあたりで名前が苦しんでいることに気づくことはできなかった。

異変は、セフィロスが現れた瞬間に訪れた。
(―――ドクン)
それが何なのかは、全くと言っていいほどわからない。不整脈?心臓発作?違う、全身を巡るのではない、全身自体が震えた。
(―――ドクン)
共鳴?でも、何と。
「ジェノバ?」
まさか。クラウドだって、ソルジャーならジェノバ細胞を与えられているはず。私たち、セフィロス以後のソルジャーは皆、ジェノバと魔晄の洗礼を受けているのだから。
ならば、何故?
クラウドは苦しんでいない。
私だけが、体に力が入らない…「くっ」
何故。
何故?私だけが違うこと…初期の実験体だから?
何が違うの。
私は、一体。何を私に植え付けたって言うの、宝条…!

狂気の実験/生体改造/生み堕とす/世界を穢す/空から来た災厄/秘密裏に処理/無知の横暴/道を違えて/仕組まれた子供たち/不幸を齎す/あの時、/でも/不可能/理論の証明/欠如は失敗に/犯されていく良識/隠蔽工作/なら私だって/知られざる顛末/神羅の闇/先入観/向き合わなかった/逃げてる?/母親たちは/家族って何/本当に/私たちは、/禍根/災厄/力の代償/諦観/絶望/死/、//大切な物は、何?//

「…!名前!」

それは、私の名前。
名前、記号、識別子。
私とあなた。姉さんと私。
私。自己、自我。境界、外と中。
でも中は見えない。
中にあるもの。
中にある物。
中にある者。
中に。誰が?
ジェノバは何?ジェノバは誰?
補うもの、奪うもの、壊すもの、与えるもの。
何故?

「これは、神羅ビルから消えた…」
「ジェノバだ。ジェノバの腕だ」

腕。パーツ。ヒト、作るもの。
―――消えた?まさか、
ジェノバの消失、これは…!

唐突に起き上がって真剣な表情であたりを見回した名前の様子に、一同は意識の回復への安堵より、不安が先立った。が…
名前、大丈夫か?」
「うん、―――」
「接岸作業員、コスタ・デル・ソル入港五分前。接岸準備を開始せよ」
放送の邪魔されて、うやむやになってしまった。
一同はそして、また水兵たちに紛れるために立ち去って行った。

2009.02.16