05. all he lost

カームに着いて、6人で宿屋の一室を占拠し、クラウドにセフィロスのことを話してもらうことになった。
どっかりと構えたバレットが相変わらずクラウドを睨んだまま、
「さあて……聞かせてもらおうじゃねえか。セフィロス、星の危機…おまえが知ってることのすべてを」
と唸る。その言葉を受けてクラウドは腕を組み、天上を見上げ、眼を細めて語り始めた。
セフィロスの戦友のような存在であったこと、5年前まで信頼していたこと。
5年前という言葉で名前とティファが顔を上げたものの、二人とも沈黙を守っていた。

クラウドが身振り手振りを交えながら5年前のことを話していくうちに、セフィロスが己の母の名をジェノバと言ったこと、ティファがガイドであったことや写真を撮ったこと、トラブルに見舞われながらもなんとか調査する魔晄炉までついたこと、そしてセフィロスが魔晄炉でジェノバを見つけ、己の存在について苦悩していた事が明らかになった。
「『オレは……人間なのか?』セフィロスがなにを言っているのか、その時の俺にはよくわからなかった。
俺はなによりも神羅カンパニーがモンスターを作っていたということにショックをうけていた
。」
名前は何故か眼をやや大きめに開いて床を凝視していた。その隣のエアリスが心配そうに覗き込むまで身動きもせず、ただ凍りついていた。
向かいの席ではティファが不安そうな表情でクラウドを見つめている。
クラウドが言葉を紡ぎ、セフィロスの狂気を苦々しげに、悲しげに語れば語るほど、二人の様子のおかしさが際立っていく。
実際にその場に居合わせ、セフィロスに斬られて大怪我を負ったはずのティファは思い出して震えているのかもしれない。では名前は何故?

「セフィロス……信頼していたのに……いや、おまえは、もう、俺の知っているセフィロスじゃない!」
悲痛な台詞をはいたクラウドは、それきり黙ってしまった。
ところが、一瞬は必要な間だったのかもしれないと思ったバレットが、喋る気配のないクラウドに続きを催促しても、クラウドは首を振って覚えていないんだ、と呟くだけだった。
「セフィロスはどうなったの?」
「実力から言って、俺がセフィロスを倒せたとは思えないんだ」
苦しそうな表情のクラウドにティファが助け舟を出す。
「公式記録ではセフィロスは死んだことになっていたわ。新聞でみたもの」
名前も補足程度に「神羅も死んだものとして扱っている。タークスから上がった報告だから、多分信頼できるよ」と付け加えた。
「……俺は確かめたい。あの時、何があったのかを。セフィロスに戦いをいどんだ俺は、まだ生きている。セフィロスは、なぜ俺を殺さなかったのか?」
「………。……ねぇクラウド、セフィロスに斬られた私はどんなふうだった?」
「もうダメかと思った……悲しかったよ」
「………」

クラウドの話の次に、バレットは名前のほうをじろりと睨み、
「おまえの話も聞きてぇ」
とドスの効いた声で言った。
「特に、話すことはないよ。」
「サンプルだったってどういうことだ?」
「関係ないでしょう。」
「タークスだったんだろう?」
「……それが何か?」
二人とも意地を張りそうだとティファたちがはらはらして始めたのを察してか、腕を構えたバレットに対して名前は肩をすくめて、
「タークスにいたから高い階へのカードキーも持ってる。それだけのことだよ。」
妙に穏やかな笑みを浮かべてそう話す名前に、しかしバレットは疑いをもてるほどの確信を抱けず、そうか、と呟いた。それで引き下がるのは癪なのか最後に「5年前のセフィロスのことを、クラウド以上に詳しくは知らないか?」と訊いた。
直前の穏やかな笑みが剥がれ、全くの無表情なった名前は声まで機械じみたトーンで
「その事件が起こって1年以内に私はタークスを脱走して、神羅とも縁を切った。それまでに私が得た情報は、そうだね、英雄セフィロスの喪失と任務に当たっていたソルジャーの殉職。それだけだよ。5年間で何か進展があったかもしれないけれど、ツォンに聞くわけにいかないでしょう?」
そんな名前の様子にエアリスは不安そうな顔になったけれど、それさえ眼に入らないらしく言葉を切るとくるりと皆に背を向け、階段を下りてどこかへと行ってしまった。

名前が心配で街を一通り回ったエアリスは、宿屋の近くにある民家の屋根に人が座っているらしいと住民の噂を聞きつけて、その民家を訪れた。
「ああ、だいぶ前に屋根からカームの景色を楽しみたいからと来た娘さんがいたかもしれないね。でも屋根は狭いから、気をつけなさい。」
住民に礼を述べたエアリスは螺旋階段を駆け上り、窓から体を突き出し上を覗いた。
「エアリス?!危ないよ」
名前だって危ないじゃない」
「・・・私は元タークスだから、これくらいのことを危ないなんてもう思えないんだよ。」
寂しげに笑った名前が何かを誤魔化そうとしている、そう何かの勘で感じ取ったエアリスはそのまま手を腰にあて、
「それだけじゃないんじゃないの。」
名前を見つめながら静かに言った。
「……」
眼をそらして答えようとしない名前から何とか言葉をひねりだそうと、そう思ってエアリスは窓枠に手をかけ、よいしょっと屋根によじ登った。
「エアリス、だから危ないって・・・・!」
慌てた名前を横目に、エアリスはぽつりと一言だけ、何か呟いた。
「え、ごめん、聞こえなかった。」
「――でしょ。」
「もいっかい。」
名前、年取って無いでしょう。」
「……」
沈黙を肯定と受け取ったエアリスは、視線を彷徨わせる名前のほうに体を傾け、優しく
「気づくに決まってるじゃない、5年も一緒にいるのに名前ったらずっと若々しくて綺麗なんだから。」
「自分より若い子に言われてもねぇ・・・」
「会ったころは大きいお姉さんだったのに、今はせいぜい4,5歳しか違わないでしょう。外見年齢。」
「外見年齢なんてアテにならないよ、役者とかは美しくあるのも仕事のうちなんだから、実年齢とちょっとくらいずれてたっておかしくないじゃない」
名前
エアリスの様子にようやく観念したのか、名前は小さくため息をついて、みんなには内緒だからねと断った上で少し、自分のことを話し始めた。

―――神羅に入社したのがいつかは内緒。親は神羅と関係なかったけど、お姉さんが神羅の研究者でね。届け物とかで本社に通っているうちに妙なきっかけでスカウトされて、まだ小さな組織だった総務部調査課、通称タークスに入ったの。
色々あって、当時から魔晄を浴びた強化兵だったソルジャーを更に強化する実験に、色んな事情で参加したんだ。初期の実験体だったからかな、企業秘密だから言えないんだけれど色んなものの調整が不完全だったらしく、その年から私は成長が止まってしまった。背が伸びることも、老化することもなくなった。女同士だから言える事だけれど、月の障りも無い。
――え?ああ、大丈夫、つらくはないよ。ただ、一つだけ悲しいのは、私のことをよく知る人、私がよく知る人がいなくなっていくことかな。でも、実験に参加してからそんなに経ったわけじゃないよ。大丈夫、古い知り合いがいなくなってしまっても、エアリスみたいに大事に思える人がまだ世界にはいる。
ごめんね、こんなこと聞かせて。さっきのクラウドの話で、セフィロスが自分がモンスターじゃないかって悩んでいたけれど、あの気持ね、私もわかる。ずっとわかってた。それなのに、気づいてあげられなかった…。
あ、下の広場で今度はみんながエアリスさがしてるんじゃない?もう、行こうか。この先、平原に行けばチョコボがいるよ。

2009.02.16