04. so far away

あの後、名前とエアリスだけは別に移動させられ、エアリスは67階に連れ戻されてしまった。
「67階ってことは、牢にエアリスを入れるの?手荒なことをしたら私が容赦しないよ、ルード。」
「……看守はオレじゃないから、そればかりはどうにも。」
名前がエアリスの背中に向けて空いている方の手を振っているのを横目で見たルードは、
「それより、名前先輩は自分の心配をしたほうがいいんじゃないかと。タークスは結果主義ですよ。」
と冷たく言った。
「辞めてからも付き纏うんだよねぇ……まあ、ツォンに私は殺せないよ。」
「知りませんよどうなっても。」
―――と、ルードには散々おどかされたものの、タークス事務室に入って取調室に押し込まれ、ツォンがやってくる頃にはすっかりくつろいでいた名前であった。
「ルード、ご苦労。立て続けで悪いがアバランチと社長の会見を行う。その警護を頼んだ。」
「わかりました。」
「いってらっしゃい」
呑気に手を振って見送る名前に呆れながらも苦笑して、ルードが出て行った。
ツォンは人払いをすませ、名前のお向かいにすっと腰掛た。
「落ち着いて話すのは久しぶりですね、名前さん。」
「そうだね、この前電話したりヘリと支柱で話したりしたけど。落ち着いて話すのは久しぶりだね。」
「5年ぶりくらいでしょうか」
「多分。ニブルヘイム事件のことで私が主任室に殴りこみをかけて…そのあと辞表を叩きつけて蒸発したからね。」
「実際には直ぐ下にいたんですね。」
「え?いや、最初はザックスを探して世界をぐるっと回ろうって思ってたんだけど、ミッドガルでエアリスを残していくのが不安で。海を渡る前に戻ってきちゃっただけだよ。」
「……そうですか。なんとも…お茶目な。」
固い顔をしていたツォンも、そこで口元を綻ばせ久しぶりの会話を楽しんでいた。
「あ、今ばかにしたでしょう、ツォン。」
「そんなことはありません。」
「そうやって私から情報を引き出し易くしようとしてるくせに。」
さっきまでへにゃっと笑っていた名前の刺々しい言葉にツォンは一気にシュンとなって、表情が沈んだ。
「では、単刀直入に訊きましょう。あなたは何故、反神羅活動などに手を染めているのですか?」
「反神羅だって思ってやったことは何もない。ザックスが後を頼んだからエアリスを、タークスとしてではなくザックスの友人として守ってきただけだよ。」
「プレートの件はどう弁明するんですか。」
「エアリスが逃げ切る時間を稼がないとダメだった。それだけ。」
けろりとした名前の様子にツォンは真面目に取り調べるのが疲れたらしく、方から力を抜いて笑った。
「……やれやれ。以前からあなたは厄介でしたが、辞められてしまうともう制御の仕様が無くて困ります。」
「そんなに厄介だったの?」
「ええ、厄介でしたよ。何せあとから入ってくる人たちから見ても若いのに主任である私より長く勤めてるんです、どう扱えば良いのかみんな困ってました。ヴェルド前主任が若い頃からずっと勤めてるというだけでも、宝条博士に近い年になるはずなんですよ。」
「……」
名前さん、今更あなたの入社年数についてとやかく言いませんし、あなたの健康診断の結果についても異常値しかなかったことは気にしていません。
私はあなたに戻って来て欲しい。レノが先日のプレートの一件で負傷しまして、仕方なく新人を入れようか検討しているんです。あなたが帰ってきてくれたらこれほど心強いことはない。」
真摯なツォンの言葉に名前は顔をゆがめて悲しそうに首を振った。
「ごめんね、ツォン。私はザックスのためにも、エアリスを守らないといけない。タークスは居心地がよかったけれど、今はそれよりも一人の人間として成し遂げないといけないことがあるから。
エアリスが私よりもしっかり自分を守れる人を見つけたら、そうしたら、帰って来るよ。」
「……解りました。それは止めるわけには行きません。名前さんがついているなら、エアリスの監視にかける人数をすこし減らせそうですし、それは歓迎するべきことなのかもしれません。
あなたのIDはしばらく残しておきましょう。ただ、今度使えばもう戻ってきたものとして扱いますよ。」
ツォンの言葉に精一杯の譲歩を感じた名前は、返すべき言葉がなかった。そのまま黙り続けること10分。
ツォンの、しばらく休んではどうですかという提案に従ってタークス用の仮眠室で眠ることにした。

次に名前の目が覚めたのは、タークス事務室に鳴り響いた電話の音に起こされてだった。無人の事務室に、電話。取るしかないだろう。
「はい、タークス」
「たたた大変なんだ、セフィロスがやってきて社長を殺してさっきアバランチが脱獄し」
パルマーの間抜けな声が今日ばかりは真剣で驚いた。どうやらクラウドたちも牢屋に捕まっていたらしい。脱獄したのなら、さっさと合流しよう。パルマーの言葉を途中でさえぎり受話器をガチャンと置いた。
名前が扉に手をかけると、ちょうど入れ違いの形でツォンが駆け入って来た。
名前さん!……合流するんですね。忘れないで下さい。私たちの元に返らなかったら、この先きっとタークスとぶつかります。」
「ご忠告ありがとう、ツォン。それでも私にはしなければならないことがある。」
ひらひらと手を振りながら名前は走り出した。70階、社長室へ。

幸い、69階でパーティわけについて話し合う仲間と合流できた。
「ごめん、遅れた。」
名前、何処にいたの?」
「タークスのところ。」
「大丈夫だったの?」
「んー、まあ、なんとか。」
「じゃあ行こうか。クラウドは上でルーファウスを足止めしてて、私はそれまで待ってる。エアリス、バレット、レッドの三人はとりあえず下まで行っておいて。」
みんな頷いて早速解散しようとした。
「え、ちょっとまって、私は?」
「戻ってくると思ってなくて……一緒にクラウド、待とうか」
「うん、そうするよ。」
バレットは不信感がありありと伺える顔をしていて、エアリスはどうしたらいいのか解らない、といいたげで、レッドは我関せずとそっぽを向いている。ティファしか話してくれない、そんなときでも名前は何にも気づいていないような顔で笑っていた。

クラウドがルーファウスに止めを刺し損ねた、と悔しそうに降りてきた。
「ルーファはそんな悪い子じゃないよ、多分。」
「……多分、全神羅社員で社長のことをそう呼ぶ人は名前しかいないぞ。」
「だろうね。ルーファが小さい頃から知ってるから。」
「…?」
名前の不思議な発言にクラウドとティファは思わず顔を見合わせたものの、やっぱり何も教えてくれなさそうな名前の顔を見ていると聞くだけ無駄な気がして、三人で1階へと、階段で降りはじめた。

その頃、エアリスたちはというと。
エレベーターで警備機械に襲われ、なんとか撃退したものの一階でも生身の警備員相手に苦戦していた。
「早く、ここから逃げなくちゃ……」
「オレが先に行くぜ!チッ……!すっかり囲まれてやがる。オレ一人ならともかく、このメンツじゃ……」
突破できずにいるバレットが悪態をつくとエアリスはまた自分の身を犠牲にすれば二人が逃げられると気づいて、先に逃げるように勧めた。
「……やっぱり、あなたたちだけ逃げて。あの人たちが狙っているのはわたし。あなたたちだけなら……」
「ヘッ、そうはいかねえな。アンタはマリンを守るためにヤツらに捕まった。今度は、オレがアンタを守る番だ。これ以上ヤツらの……神羅の好き勝手にはさせねえ」
「……ありがと、バレットさん」
「ヘヘッ、よしてくれよ『バレットさん』なんて、オレのガラじゃねえや」
バレットが警備兵に向って突進し始めたとき。階段の上からティファがみんなを呼んだ。
クラウドと名前がバイク、他の四人がトラックに乗って、神羅ビルの直ぐ横を走るハイウェイに飛び移ってそのままミッドガルから逃げ出してしまおう、という作戦を立てたらしい。
「クラウド、私が殿を守るからあなたは先頭にいてくれる?私が取り逃した追っ手をトラックの近くで捌いてほしいの。」
「ああ、わかった。」
「じゃあ、行こう!」
名前の掛け声で三台は神羅ビルの窓を突き破ってハイウェイに降り立った。

名前の作戦はさすがというべきか、見事に機能した。銃で敵を狙撃できる名前が処理しきれない分を機動力の高いクラウドが仕留めていけば、トラックに乗った人たちは安心して運転に集中できる。
最後に巨大な火吹きロボットが追ってきたものの、これもクラウド、名前、レッドの三人であっさりと片付けられた。
こうして、あっという間に一行はミッドガルを飛び出て、カームへと向って歩き出した。

2009.02.16