03. what are you waiting for?

七番街の残骸に向って吠え、マシンガンを乱射し、ひとしきり男泣きに泣いたバレットをクラウドとティファが落ち着かせ、マリンが生きていることを認識させている間、名前は黙ってその様子を見守っていたが、無為にそうしていたわけではない。
自分のことを話して良いのか、どうやったらエアリスを守れるのか。
様々なことを考えて、同時に耳から脳に流れ込む会話の断片に心が震えるのを押さえていた。
「ジェシー……」
名前の呟きに応えるように、バレットたちもジェシーたちが死んだと思いたくない、と話しはじめた。共に戦ってきた人間を悼む気持ちからの言葉なのだろうけれど、名前は神羅やアバランチが自らの正義のために人の命を踏みにじる組織だと改めて痛感して、膝を抱えていた。ふと顔を上げると自分と同じように黙ったクラウドと眼が合って、何故かお互いに誰のことを考えているかわかった。
そのまま立ち上がって、二人揃って五番街の方へ歩き出した。
後ろからバレットたちが慌てて追ってくる音がしたけれど、構わず歩き続ける。
エアリスの家へ。真実の一端を明らかにするために。

少々荒れた六番街付近と違って、五番街はほぼ無傷だった。そのことに安堵すると同時に、エアリスのことを思うとそんな小さい安心ですら吹き飛んでしまう自分を見つける。こんなところで名前はこの五年間、自分がいかにエアリスに執着してきたかを認識した。
たった五年。自分にとって、取るに足らない短い時間であるはずなのに。
エアリス。健気に笑っていた、古代種の少女。
どうか、無事でいて。
空を隠すプレートの上で、空を恐れた少女が泣いていませんように。

ゲインズブール家に帰り着くと、食卓について呆然としているエルミナがいた。
名前たちを見ると悲しそうにエアリスがここでツォンに捕まったことを四人に話した。
クラウドが「何故エアリスは神羅に狙われるか」と訊くとエルミナは、15年前に七番街の駅にウータイ戦争に出兵していた休暇帰りの夫を迎えに行ったときに、エアリスと彼女の母が行き倒れているのを見つけ、イファルナの最期を看取ってからエアリスを引き取ったのだと、エアリスの過去を話した。
亡くなった母のことを「星に還っただけだから寂しくない」という風に受け止めていたこと。
よくなついて、色んなことを話してくれたこと。
研究室みたいなところから逃げ出したらしいこと。
誰も居ないところで声が聞こえること。
夫が亡くなった時も、手紙より早く感じて教えてくれたこと。
そして、ツォンがある日訪れ、古代種であることを理由に神羅カンパニーへの協力を要請に来たこと。何度もしつこく訪ねてきたけれど断り続けていたこと。

エルミナの口から語られるエアリスの過去は驚きの連続だった。名前を除いた三人――特にエアリスの人柄を知るクラウドとティファ――は明るいエアリスの様子と、神羅に追われ続ける生活や幼い時の実母との死別という辛い過去がかみ合わないようだった。
今回ここで捕まったことに違和感を覚えたのか、ティファが
「じゃあ、今回はどうして……」
と訪ねると、エルミナは小さく首を振り、女の子を連れて帰って来たんだ、と言った。
クラウドは納得したように「マリンだな」と呟き、ティファは自分がエアリスにマリンを頼んだからだと自責の念に駆られ、バレットはマリンが自分の娘だと父親であることを名乗り出た。
エルミナはバレットを責めたけれど、それはエアリスをこんなことに巻き込んだからではなく、娘を放り出しているバレットを、同じように子供を持つ親として叱っただけだった。それにバレットは自分の苦悩で答え、考えた上での生き方であると反論した。
バレットがエルミナに言われマリンを見に階段を上がりかけたところで急に名前のことを思い出したらしく、だだだと再び降りてきた。

「そういや、名前さんよ、あんたは結局何なんだ?タークスの連中とどういう繋がりがあるんだ?支柱ではお世話になったが、場合によっちゃ―――」
名前は手を挙げて台詞をさえぎる。
「バレット、その先は言わなくて良い。私は元神羅社員だよ。」
腕を組んで胡散臭そうな顔をしたバレットは眼を眇めて名前に迫った。
「ただの社員がタークスに『先輩』って言われるか?」
クラウドも小さく頷き、魔晄の眼だしな、と付け加えた。
名前はため息をついて苦笑した。
「やれやれ。タークスだったんだよ。それだけで十分でしょう?」
バレットは食い下がったものの、マリンが二階で寂しくしているだろうと名前に指摘されると火がついたように階段を上がっていってしまった。ティファも上に行ったあと、クラウドは改めて名前のほうを向いて魔晄の眼について問いただしたものの、名前は笑って何も答えなかった。

エアリスを助けに神羅ビルへ行こう!ということで話はまとまったものの、どう行くか、については誰も考えていなかった。名前なら良い道を知っているのでは?とティファが言ったものの、列車に乗れない人たちを連れて本社に出勤したことはないよと小さく笑われてしまった。
仕方がないのでウォールマーケットで方策を探ろうということになり、一行は来た道を戻って繁華街へと踏み込んだ。

エアリスと三人でティファを助けるために巡ったときから瓦礫の増えたウォールマーケットだったけれど、住民は無事に暮らしていた。ガラクタ集めが趣味の武器屋のごみ山がちょっと大きくなったくらいで、本当に隣のセクターであんな大惨事があったとは言われなければ誰も気づかないだろう。
さて、そんなウォールマーケットの住人に話を聞いてみてたものの、誰も神羅本社に突撃しようなんて考えてみたこともないらしく、よいアイディアは出なかった。途中の武器屋のオヤジが電池を買えというのだから買ったら情報をくれるのかと思いきや、電池を売りたかっただけだったりと、ロクなことがない四人は苛立ちを隠せないまま、コルネオの屋敷の前までたどり着いてしまった。
屋敷には何もないだろうな、と思い引き返しかけた時、前の広場で遊んでいた子供たちが脇の路地に入る姿が眼に止まった一行は、子供たちについていったところでプレートの断面からぶら下がるワイヤーと対面した。
子供たちは無邪気に登って遊んでいるようだったけれど、見上げればプレートの上まで続いているような、れっきとした侵入経路になりうるワイヤーだった。
バレットが嬉しそうに腕を振りかざしてワイヤーを指した。
「よし!このワイヤー、のぼろうぜ!」
クラウドが眉間に皺を寄せて首を振る。
「それは無理な話だな。何百メートルあると思ってるんだ?」
「無理じゃねえ!見ろ!これは何に見える?」
「何のへんてつもないワイヤーだ」
「そうかよ?オレには金色に輝く希望の糸に見えるぜ」
豪快に腕を振りながら登ろうとせかすバレットに、ティファも頷いてクラウドのほうを向く。
「そうね、エアリスを救うために残された道は、これだけだもんね」
名前もクラウドを冷やりとさせるような眼を向け、「この程度のワイヤー、ソルジャーなら登れて当然でしょう?」と挑発した。
ムキになったクラウドは名前の発言は無視して、
「よくわからないたとえだったがバレット、あんたの気持ちはわかった。行くぞ!」
とワイヤーを掴んだ。

四人でせっせとワイヤーを登ることはそれほど難しくなかった。元タークスの名前と元ソルジャーのクラウドは勿論のこと、力の強いバレットと見の軽いティファもすいすいと登っていけたのでワイヤーにたどりつくまでの苦労が嘘みたいにあっさりと本社前についてしまったのであった。
満足げに笑ったバレットがクラウドと名前を振り返りって「おい、このビルには詳しいんだろ?」と言った。
それにクラウドが「……知らない。そういえば本社に来るのは初めてだ」と答えたので名前は首をかしげた。ソルジャーなら絶対に本社で訓練を積みミッションを受けてきたはずであり、たとえソルジャーでなくとも全社員の活動の基点となっていたのだから来た事が無いというのはありえない。
おかしい。クラウド・ストライフは明らかにどこかおかしい。
そう思ったところで言ってしまう名前ではない。
「私は知ってるから問題ないでしょう。」
バレットは名前の言葉に渋面を作り、腕のガンを扉に向けた。
「前に聞いたことがあるぜ、このビルの60階から上は特別ブロックとかで社員でも簡単には入れないってな。エアリスが連れていかれたのもそこにちがいねえ。今なら警備にもスキがある。おおし、いくぜっ!!」
今にも駆け出しそうなバレットにティファは慌てて
「ちょっと待ってよ!まさか正面から乗り込むつもり?」
と声をあげた。
「決まってるだろ!神羅のやつらを蹴散らして……」
「そんなのムチャよ!もっと見つかりにくい方法を……」
「そんなコトやってられねえ!グズグズしてたらエアリスだって……」
「それはわかるけど!ここで私たちまで捕まったら……」
自信を失いながらお互いを否定する意見を重ねるバレットとティファに名前が解決策を提示した。
「二人とも、喧嘩しないで。ちょっとしたアイディアがあるんだ。
私がタークスの制服に着替えて、クラウドはそのままでもソルジャー2ndの制服だからいいとして、うーん、あとの二人は私が保護した一般人ってことにして正面から穏便に乗り込まない?タークスは幹部ほどではないものの強い権限を与えられていたから、受付さえ騙せれば問題ないと思う。」
安全かつ迅速にエアリスの元までたどり着けそうな方法に全員納得したようで、非常階段のほうで名前が着替えてすぐに四人は神羅ビルへと足を踏み入れた。

「――お話をまとめますと、そちらの男性とこちらの女性はタークスの捜査に協力しているミッドガル市民、ということですね?わかりました。ではお二人には60階までのゲストパスを発行いたします。なお、社員でない方は61階以上には入らないようにお願いします。お帰りの際にゲストパスはお返しください。」
名前とクラウドの制服、それに名前のタークス然とした態度に騙された受付嬢は笑顔でアバランチ2名+元ソルジャ1名ー+元タークス1名をビルに受け入れてしまった。
「やれやれ、神羅の警備もスーツと戦闘服に騙されるようじゃ役に立たないね…今度ツォンに言っておこう。」
「……」
60階まで一般用のエレベーターで上がり、61階からは名前のカードキーで1階ずつあがって情報を集めながら移動した。
62階の資料室ではドミノ市長にカードキー65を賞品にクイズを吹っかけられたが、名前は「自分の方が高いランクのキーを持ってるから好きにやって」と言って資料を読み漁っていた。
ティファが名前に「何か調べ物?」と聞くと本から目も上げずに「ちょっとね」と答え、背表紙だけティファに向けた。
「ジェノバプロジェクト経過報告書?」
頷いた名前は暫くすると気になるページを破り取ってポケットにしまい、本を本棚に戻した。
「ごめん、行こう。」

66階まで落ちているものを拾ったり休憩したりと潜入している割にのんびり上がったけれど、名前の「66階は会議室がある、そろそろ私たちが不審者だって気づく人もいるかもしれないから気をつけて」という言葉で三人は気を引き締めた。
まるで予知のようなタイミングだった、と後から思い返すことになるこの一言が発せられた直後に、四人の潜んでいた通路の前を紅い服の女性が通った。
「あ、スカーレット・・・!」
「誰?」
「兵器開発部門の部長、スカーレットだよ。重役会議があるのかもしれない。排気口から聞こう。」
名前が会議室の裏側を通って着いた先はトイレ。
「え、・・・・・トイレ行きたかったのか?」
気まずそうにクラウドが聞くと名前は「違う!!ここの排気口が一番大人数で入りやすいと思ったから来ただけ。」と声を大きくして否定した。
急がないと会議が始まる、ということで四人は少しずつ時差をつけて一つの個室に順次入っては排気口に登った。ちょうど四人がぎゅうぎゅうに収まったころに会議も始まり、七番街のこと、増税のこと、そしてエアリスのことを部長五人とプレジデントで話し合って、あっという間に解散となった。
「宝条がエアリスを預かってるのか、厄介だね…」
「宝条って科学部門の責任者だろう?クラウド、知らねえのか?」
「実際に見るのは初めてだ。そうか……あいつが……」
「本当に見たことないの?…まあ、どうでもいいけど。行くよ、宝条のところなら一つ上に研究フロアがあるから。観察中だったとしても二つ上。私のキーもそこまでだから、よかった。」

宝条を追い抜くような勢いで歩くバレットとティファを引き止め、名前は「私、顔知られてるからなるべくこっそり行こう。」と囁いた。
「知られてるって、やめたこともか?」
「うん、昔から知られてるから、多分。」
「後ろをついていけば安全だろう」
宝条に見つからないように、ただし見失わないように四人は66階へと上がって、大きなガラス筒の前に立ち止まった宝条から身を隠すために大きなドームの横にしゃがみこんだ。
名前はそのドームから少しでも体を遠ざけるように木箱にしがみついていたけれど、他の人たちはそんなことには構わず、宝条が上にあがるまで待っていた。
どうやら研究員と話しているらしく、今日の実験サンプルについて指示を出して奥の方へと行ってしまった。
安心して近寄ったティファがガラスの中の獣を指して実験に使われるんだろうかと心配そうにしている間に、クラウドはドームの窓を覗いていた。
隣に立っていたバレットにクラウドが「見たか?」と聞いた。
「何を?……何だい、この首なしは?けっ、バカバカしい、さっさと行こうぜ。」
ティファとバレットがすたすたと奥へと歩いていくのにクラウドが動かない。そう名前が思って声をかけようとした途端、クラウドは床にうずくまり、
「ジェノバ……ジェノバ……セフィロスの……そうか……ここに運んだのか」
と呻いた。
気づいたティファが戻って来て名前と共に介抱する。
「クラウド、しっかりして!」
「無理しないで、大丈夫?」
「大丈夫だ、行こう。」

奥にあった実験用エレベーターで68階に上がると、フロアの中央に設置されたガラス筒にエアリスが、そしてその前になにやらデータを書きとめる宝条の姿があった。
「エアリス!」
「エアリス?ああ、この娘の名前だったな。何か用か?」
駆け寄ったクラウドに一瞥をくれ、再びカプセルのほうを向き直った…と思ったら、慌てて一行のほうを眺め、名前に親しげな声をかけた。
「これは珍しい、名前じゃないか。どうしたというんだね今日は、やたら騒々しい連中をつれて。」
「宝条、そろそろ頭にでもヤキが回ったの?私、もう辞めたんだけど。」
「総務部を辞めていようと私のサンプルであることは変わりあるまい?サンプルが来たのなら一応データを取っておこうかなと思ってしまうのが科学者の性でね」
「御託は良い、エアリスを返して。」
断固として譲らない名前たちの態度に何を見たのか、宝条は答えずに後ろを振り返って研究員に合図を出した。
「さあ、サンプルを投入しろ!」
そこでカプセルに現れたのは下で見た赤い獣。
「クラウド、助けて!」
エアリスに飛び掛ろうとする赤い獣にクラウドたちは慌てた。
「何をする気だ!」
「滅び行く種族に愛の手を……どちらも絶滅間近だ。私が手を貸さないとこの種の生物は滅んでしまうからな」
冷静な宝条にアバランチは激怒し、口々に宝条を非難する。クラウドがバレットに何とかならないのか、というとバレットは宝条の制止も聞かずに腕の機銃を勢いよく撃ち、ガラスを破壊した。
その瞬間に先ほどまでエアリスを襲おうとしていた獣がガラスから飛び出て宝条を押さえたので、クラウドは駆け込んでエアリスを助け起こした。
「ありがと、クラウド」
エアリスが嬉しそうに笑ったのに、クラウドが止まって動かない。
「どうしたの?クラウド……」
「……エレベーターが動いている」
硬い表情でティファに答えたクラウドはエアリスをティファとバレットのほうに押して剣を構えた。その間にもカタカタと動いていたカプセルの中のエレベーターが吐き出したのは、醜悪な虫のような化け物だった。
その様子を見ていた獣が「あいつは少々手ごわい、私の力を貸してやる」と助太刀を申し出た。エアリスの背中をなでていたティファはそこでびくんと獣のほうを見て「喋った?!」と小さく叫んだ。
「後でいくらでも喋ってやるよ、お嬢さん」
クラウドは獣に感謝を表し、仲間には「あの化け物は俺たちが片付ける。ティファ、バレット。エアリスを安全なところへ。」と指示を出した。
「あなた、名前は?」
「宝条は私をレッドXIIIと名づけた。私にとっては無意味な名前だ。好きなように呼んでくれ。」
名前は大きく頷いてしゃがんで「よろしくね、レッド」と言った。
その様子を傍目に見ながらクラウドは「さあ、かかってこい!」とモンスターに向って駆け出した。

結論から言ってしまえば、HO512およびHO512-OPTは、弱かった。毒を振りまいてこちらの体を痛めつけてくるのはじわじわと効いてつらかったけれど、クラウドたちよりも強い炎のマテリアを持っていたレッドXIIの助太刀と名前の援護射撃もあり、誰もが思ったよりあっさりと倒せてしまったのだ。
「エアリス、大丈夫か?」
安全を確認して戻ってきたエアリス・ティファ・バレットにクラウド・レッド・名前が駆け寄ると、ティファが大きく頷いて
「大丈夫みたいよ……色んな意味でね」
と答えた。
居心地悪そうに視線をそらしたレッドは「……私にも選ぶ権利がある。二本足は好みじゃない」とぼそぼそ言った。
「おまえ、なんだ?」
「興味深い問いだ。しかし、答えがたいな。私は見ての通り、こういう存在だ。……色々質問もあるだろうが、とりあえず此処から出ようか。道案内くらいなら付き合ってやる。」
レッドはここで言葉を切り、名前のほうを見た。
「もっとも、そちらのお嬢さんの方が私より古株のサンプルのようだけれど。」
その言葉に沈黙が一同を包んだ。耐え切れなくなったのか、雰囲気を打ち壊すべく三人ほど明るい声を出した。
「クラウド、やっぱり来てくれたのね」
「さっきは失礼したな、宝条を油断させるために演技をしたつもりだったが…」
「さあ、エアリスを助ければもうこんなビルに用はない!さっさと出ちまおうぜ」
6人でぞろぞろ行動していては目立って仕方がないだろう、ということで3人ずつに分かれることになった。
研究フロアに精通したレッドと名前はわけ、女性が固まるのも何かと困るだろうということでエアリスとティファはわけ、遠距離攻撃のできるバレットと名前をわける…と考えると、パーティはクラウド・名前・エアリスの三人、それとレッド・バレット・ティファの三人になった。通りすがりの研究員からカードキー68を入手し、バレットに渡した。
「エアリス、大丈夫だった?」「名前こそ、無理してない?」
道中ずっとこの調子だ。げんなりした気分でエレベーターに乗り込んだクラウドたちはなぜか67階で止められ、何事だと振り返るとそこにはタークスのルードがいた。
「上を押してもらおうか?」
「タークス?ワナ……か」
「スリリングな気分を味わえたと思うが……楽しんでもらえたかな?」
「くっ……」
唇を噛んだクラウドから目線を外し、名前を懐かしそうな眼でみたルードと、彼女は眼をあわせられなかった。
名前先輩。カードキー68なんて使ったら、IDがタークス事務室に送られてこないはずがないじゃないですか。あなたほどの人がなぜ。」
「……事務室にツォンがいるの?」
「ええ。古代種と先輩は確保しておくように言われまして。」
観念したように名前は手をあげ、エレベーター内の四人が全員ため息をついた。

2009.02.16