02. no2body knows

なんとか七番街までたどりついた名前は、ここに来て困ったことに気がついた。ティファさんのお店って、どれのことだったの・・・?
ぼやぼやしているうちにプレートを落とされるかもしれない。仕方がない、手当たり次第ティファとやらの店を知らないか聞こう。そう思って名前は、通行人を片っ端から捕まえ、不躾なほどの勢いで問い質し始めた。
「あの、すみません、ティファさんのお店ってどちらですか?」
「あんた、そんなことも知らないのか?他所モンは帰れ。」
「……呼び止めてごめんなさい、最後に一つ。ここは危ないので、できれば逃げてください。」
「……意味わかんない」
殆どの人が相手にしてくれなかった。何故だろう?解らないまま、それさえ教えてもらえないまま、ただ警告を繰り返すしかなかった。

似たような遣り取りを繰り返しているうちに、ティファを探っている人がいるという情報が回ったらしく、強面の男が名前の男がこちらにずんずんと歩いてきていた。
「オレらのことを探りに来たのか?残念だったな、コルネオはもう仲間が」
「あ、あなたが、ティファさんをコルネオのところに行かせた人?ってことはティファさんの仲間?信用していいのよね。大変なの、ティファさんを探しにドンの館に入ったクラウドとエアリスが―――」
強面の男は名前がティファとクラウドの名前を出すと途端に顔色を変えて、「すまねぇ、仲間が迷惑をかけたらしい」と頭をかきながらアジトへ案内しようとした。
「おじさん、それどころじゃないよ今!!プレートが落ちたら七番街はぐっちゃり潰されちゃう!止められるのは私たちだけなんだよ、クラウドたちが行方不明だから。」
「(お、おじさん?) 何だと?!こうしちゃいられねぇ、ビッグス!ウェッジ!ジェシー!行くぞ、プレートを落とされる前に!」
仲間の名前を叫んだ男はうぉぉと腕を振りながら支柱の方へ走り去ってしまった。応えるように現れた三人の男女は口々に「ガセネタじゃないか確認しなよ」だの「おい、バレット待てよ!」などと男の背中に向って呼びかけながら追っていく。取り残された名前も、肩をすくめて誰にとも無く「やれやれ」と呟きながら、名前も知らない男の後を追った。

名前が追いつくと、強面の男はプレートを支える支柱周辺のフェンスの内側にいる神羅兵を腕の銃で攻撃していた。
金網に跳弾して男が怪我をしそうだった。あまりの単純さに呆れて思わず立ち尽くしていると先についてフェンスの扉をピックしていた男の仲間である女性がジェシーだと名乗り、名前の名前を尋ねた。名前は、笑顔で、
「私は名前。あの人は?」
と返した。
「バレットよ。私たちは反神羅組織アバランチ、彼はリーダー。あなたはなんで此処に?」
赫々然々、事情を話すとジェシーは目を丸くして名前を見た。
「クラウド、ティファのために頑張ったんだ。よかった、冷たそうだけど仲間のために行動する心を持っていて。」
ふう、とジェシーが息をつくと、ちょうど鍵が開けたようでカチリと鳴った。
「じゃあ、私たちも上に行こう。」
鍵が開いた途端に支柱への階段を登り始めたバレットを追って、ビッグスとウェッジ、ジェシーと名前はそれぞれの武器を手に駆け出した。

知り合ったばかりのジェシーとタッグで戦い、ビッグスとウェッジが後衛を務めながら階段を上がる。空中兵は厄介な敵ではあったけれど、後ろさえ取られなければ倒せない敵ではない。
暫く登ったところでビッグスとウェッジが後ろから登ってくる一般兵に気づき、その場に残って私たちやバレットが背後から襲われる危険をなくすために敵を討つことを決めた。私とジェシーは頷くしかなくて、「怪我しないようにね」「そっちこそ落ちるなよ」と言葉を交わし、また階段を登った。
支柱まであと少し、と思ったところで、神羅のヘリがバレットに掃射を浴びせていることにジェシーが気づいた。
名前、お願い、私よりバレットを助けて!」
息も上がってすっかり疲れ果てたジェシーを置いていくことに名前は強い不安を覚えた。でも、リーダーを失ってしまっては彼らも困るのだろう。
「任せて、ジェシー。バレットは必ず守り通そう。」
後ろは振り返らなかった。ジェシーが敵をひきつけて自分が通れるようにしてくれているのだから自分の役目は真っ直ぐ進むこと。ジェシーの託した思いを果たすこと。
名前はそう強く念じていた。だから。後ろでジェシーのうめき声がしても、名前は決して振り返らなかった。

バレットと合流して、二人でヘリに牽制の意味もある弾丸を浴びせる。翼や窓には当たらず、分厚い装甲に跳ね返されるばかりだった。
「バレット、このままじゃ拉致があかない、どうにかしないと…!」
「しょうがないだろう、オレは何をどうすればプレートを落とせなくするのか分からないんだ!!」
「……。」
名前が大きくため息をつき、首を力なく振ったと思ったら、タンタンタンという物音に階段に銃の照準を合わせた。階段から飛び出てきた人影がクラウドとティファだと確認すると安心したように腕を下ろし、「エアリスは?」と尋ねた。
「下に。」
クラウドの簡潔な答えに怪訝な顔をするも、直後ヘリからの掃射を受けたために問い直す時間は無かった。そのまま動けずにいる四人を飛び越えるかたちでヘリから赤毛のスーツが飛び降り、制御盤に何かのコードを打ち込んでしまう。
画面に踊る文字を認めたバレットが悔しそうに顔をゆがめた。
「くっ!時限爆弾か!」
「おそかった、と。このスイッチを押すと……はい、おしまい!作業終了」
飛び去っていくヘリを確認しつつそちらへ駆け寄ると赤毛のスーツ―――レノが電磁ロッドを取り出して近寄らせてくれない。
ティファが顔に恐怖の表情を浮かべ、制御盤のパネルを指差す。
「解除しなくちゃ!クラウド!バレット!おねがい!」
「そういうわけにはいかないぞ、と。タークスのレノさまの邪魔は、誰にもさせないぞ……と」
言葉を切ったレノは真っ直ぐ名前を見て、
「そう、裏切り者の名前先輩だろうとだぞ、と。」
と呟いた。
その一言にクラウドたち三人は思わず名前を振り返ってしまったが、彼女は冷静に銃に弾を再装填して、カチャリと構えただけだった。レノの言葉に反論するでもなく、動揺するでもなく、ただ無表情でその場の全員を眺め、何の合図も無くレノを撃った。

クラウドたちにしてみれば強すぎるレノは名前の援護射撃によりひどい傷だらけになっていったものの、倒れることは無かった。戦いのさなかにふと時計をみて、
「そろそろ時間だぞ、と」
と言い、足場のふちへと駆け出した。
掴まれたティファがぐるりと回転し、バレットがレノの背中を撃とうとして空の弾倉に気づいて舌打ちをもらす。追おうとするクラウドとは対照的に微動だにしない名前のほうを振り返ったレノは、名前の手に握られたライフルを忌々しげに睨みながら、「名前先輩、俺はあんたのロッドを尊敬してたんだ、と」と言い残して飛び降りてしまった。おそらくヘリが控えているのだろう。
またもタークスとの繋がりを感じさせる発言があったことにアバランチの三人は戸惑った顔で名前を見たが、今もやはりそれどころではない。クラウドたちは慌てて制御盤に取り付いて解除を試みるが当然、上手くいかない。
名前がこのプレートを落とすための起爆装置が神羅の役員会の同意なくして解除できない、緊急用のシステムだと三人に説明しようかと迷っていると、バタタタタというヘリの回転翼による音が近づいてきた。

そちらを見ると、ヘリコプターにのっていたのはツォンと、自由を奪われたエアリス。
「……ただの時限爆弾じゃない」
ようやくその事実に行き当たったクラウドはそう呟きながら振り返って、ツォンに初めて気づいた。
「そのとおり。それを操作するのは難しい。どこかのバカ者が勝手にふれると困るからな」
ティファはさっきよりもまた悲痛な顔をして、「おねがい、とめて!」と叫んだが、ツォンにその思いは届かない。
「クックックッ……。緊急用プレート解除システムの設定と解除は神羅役員会の決定なしではできないのだ」
その、彼らを見下したような台詞にバレットは腹を立ててマシンガンを連射した。
「ゴチャゴチャうるせえ!」
「そんなことをされると大切なゲストがケガするじゃないか」
悠然と、自分の隣で拘束されている少女を指す。
ティファはさらに戦慄し、「エアリス!!」と悲鳴をあげた。
「おや、知り合いなのか?最後に会えて良かったな。私に感謝してくれ」
「エアリスをどうする気だ」
「さあな。われわれタークスにあたえられた命令は『古代種』の生き残りをつかまえろ、ということだけだ。ずいぶん長い時間がかかったが、やっとプレジデントに報告できる」
安堵の表情を見せたツォンの隙を突いて身を乗り出したエアリスが唐突に、
「ティファ、だいじょうぶだから!あの子、だいじょうぶだから!」
と声をあげた。いらだたしげにツォンがエアリスを殴って、それを見たティファは再び「エアリス!」と叫んだ。
頬が赤く腫れたことにも構わず「だからはやく逃げて!」とエアリスが叫んだと同時に、さっきまであんなに冷静だったのが嘘のように思える勢いで名前がふちへと駆け寄り、ツォンを罵り始めた。
「ツォン!!エアリスを捕まえてどうするつもりなの?!
タダじゃ置かない、殺してやる、神羅本社を爆破する!!
プレートは勝手に落とせばいい、でもエアリスに危害を加えるのだけは!!私は、絶対に許さない!」
一瞬ひるみ、哀しそうに名前を見たツォンは直ちに冷徹な表情を取り戻し、
「クックックッ!そろそろ始まるぞ、逃げきれるかな?」
と吐き捨てて、安全な場所に戻るべく去っていった。

暫く鬼のような凄絶な顔をしていた名前だったが、ツォンをのせたヘリが飛び去るのを認識した途端に元の冷静な名前に戻ったようだった。
バレットが「おい、このワイヤーを使って脱出できるぜ!」と言うと力強く頷き、ティファをバレットの前に乗せ、クラウドを肩に乗せた上で自分はワイヤーにそのまま掴まった。爆発音を背に四人を乗せたワイヤーは七番街から六番街の境目まで、真っ直ぐ明け方のミッドガルを切り裂いた。

2009.02.16