00. he who fell

「ただいまー、名前!」
家の扉が勢い良く開くと、つややかに結われた茶髪をはためかせ、後ろに金髪の青年を連れた少女が飛び込んできた。
そのまま階段を駆け上ろうとする少女を、母親らしき人物が止めた。
「エアリス!」
「ただいま。名前は?」
「二階を探しても無駄よ、今おでかけ中だから。」
娘が落胆のため息をもらしたことにも構わず、それより、と続けた。
「そっちの方は?」
「あ、クラウド、私のボディーガード。」
「ボディーガードって……おまえ、また狙われたのかい!?」
「体は!?ケガはないのかい!?」
「だいじょうぶ、今日はクラウドもいてくれたし」
知らない若者などそっちのけで娘の無事を確認していた母親は、そこで始めて青年のほうを向き、ありがとうクラウドさん、と笑った。
「ねぇ、これからどうするの?」
「……7番街は遠いのか?ティファの店に行きたいんだ」
「ティファって……女の人?」
遠慮勝ちに青年が女性の名前を口にすると娘はニヤりと笑い、彼女?と尋ねた。
「そんな」
青年が答えようとした途端、家の扉が嵐が来たかと錯覚するほど乱暴に開かれ、飛び込んできた勢いのまま青年に飛び掛る人が現れた。

「エアリスをナンパしたのはあなた?!教会に怪しい人が来たって聞いたんだけどよくも家まで上がってきたね、この私がエアリスを連れ去る奴はみんな倒おおおす!!」
わき腹に叩き込んだ拳をそのままホルスターに伸ばし、早業としか言いえない速度で拳銃を抜き青年の眉間に照準を合わせる一連の動作が、彼女が只者ではないことを如実にあらわす。その勢いに呑まれ呆気に取られていたクラウドは、もしエアリスがとっさにその人の腕をつかまなければ一瞬の後には星に還っていただろう。
名前っ、違う、クラウドは助けてくれたの!慌てないで!タークスじゃないでしょ?」
「でも魔晄の瞳じゃない、そんなの神羅の人間以外には居ないでしょう!」
クラウドと名前がにらみ合う。かちゃり、と互いに得物を構え、「やるか?」と言った、まさにその時。
ぽか、ばし!
ロッドを構えたエアリスが二人の腕を強かに打った。
「あいたた・・・」「いた・・・」
「もう、二人とも、落ち着いて!名前は5年前からずっと私をタークスから守ってる人。クラウドはさっき私をタークスから守ってくれた何でも屋さん。二人が喧嘩しちゃ、だめ。」
「ごめん、エアリス。だって、町の人がエアリスが変な人と歩いてるって言うんだもん。直前に『教会に人が来た』なんて話も聞くし、疑って当然じゃない?」
名前、言い訳しないで。」
それまで必死でクラウドと眼を合わせないようにしていた名前は、始めてその長い前髪の間からクラウドと視線を合わせた。
あまりに突然の襲撃バックアタックだったためどういう人物か見られていなかったクラウドはそこで初めて、自分に強烈すぎる一撃をお見舞いした人物が小柄な少女だったと知り、愕然とした。
26、7歳だろうか。あまりギラギラしていない、内側は茶色い金髪が頭の後ろで結ばれ、折り返されている。ちょっと長めの前髪からは強い魔晄の色に光る眼が見え、そればかりが目立つ。華奢というわけではないが、がっちりしているわけでもない体はスーツに包まれている。
名前はちょっと困った顔でクラウドを見て、ぽそりと「ごめん」と呟いた。
「あ、いや、その……」
「……」
「え、えと、7番街に行くんだよね。私が案内しよう。」
控えめに名前が提案してみたものの、クラウドは首を激しく振り、拒否してしまう。
「冗談じゃない、あんたに危ない目に合わされたらどうするんだ。」
それなら、とエアリス。
「じゃあ私、案内してあげる。」
「それこそ冗談じゃない!また危ない目に会ったらどうするんだ?」「本当に冗談じゃないよ、エアリスが行くなら私も行きます。」
「なれてるわ」
「慣れてる?!……まあ、そうだとしても 女の力をかりるなんて……」
「あ、聞き捨てならないね。」「女!!女の力なんて!?そういう言い方されて だまってるわけにはいかないわね」
ねー、と二人は顔を合わせ、エアリスの母に送ることを伝えた。
「やれやれ。言いだしたら聞かないからね。」
母親が嘆息しても止まらないエアリスだったが、さすが母親だけあって、御し方を知っているらしい。
「でも、明日にしたらどうだい?今日はもう遅くなってきたし」
頷いたエアリスにベッドの準備を命じ、上にやってしまってからクラウドと名前のほうを向く。
「あんたのその目の輝きは……ソルジャーなんだろ?」
クラウドは名前のほうをちらりと一瞥しながら、
「ああ しかし、むかしの話だ…」
と答えた。
「………言いにくいんだけど…今夜のうちに出ていってくれないかい?エアリスには内緒でさ」
その意図を汲み取った名前は手を挙げぱたぱたと振る。
「エルミナさん、それなら私が送っていきますよ。一応、エアリスを助けてくれた人だし、迷子にするのは悪いよね。」
「ああ、助かるよ。名前さんには昔から助けてもらってばかりだ。」
エルミナは名前に笑ってから、寂しげな顔でクラウドのほうを向いて、こう呟いた。
「ソルジャーなんて……またエアリスが悲しい思いをすることになる……」

首をかしげたクラウドに、名前は「気にしない気にしない。寝て来なよ、疲れてるでしょ。あんまり遅いとエアリスも不審がるし。」と声をかけ、それに応えてクラウドは就寝の挨拶を二人にかけて階段を上がっていった。
名前とエルミナは見届けてから声を潜めて会話を始める。
「エルミナさん、彼は責任を持って私が送ります。エアリスが危険な眼にあうことは、私は許せません。」
「ありがとう……私ももう寝て良いかね?後は名前さんに任せるよ。」
「はい、おやすみなさい、エルミナさん」
エルミナが部屋を出てから名前は食卓の椅子に座り、夜になるのを待ち始めた。しばらくしてから、ぽつりと独り言をこぼした。
「ザックスに似てる。でも、違う。ザックスが話してた可愛い兵隊さんか…?」

2009.02.16